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Downsizing

Text by Tsunemichi Yoshida

省燃費を目指したガソリンエンジンの
ダウンサイズ&ターボ化が止まらない

電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)など、新しいエンジンを搭載した自動車が次々と登場している。
しかし、古くからある“ガソリンエンジン”も負けてはいない。
各メーカーが投入を始めている、ガソリンエンジンのターボ化に焦点を当てる。

ガソリンエンジンのターボ化(Turbo/過給機※1)は、完全に世界の自動車のトレンドになった。従来のエンジンと同等の性能を確保したまま排気量を小型化し、走行時の燃費を向上させるガソリンエンジンのダウンサイズ&ターボ化は欧州で始まり、現在では完全に主流になりつつある。自然吸気マルチシリンダーV型エンジン※2を主力にしてきたあのフェラーリでさえ、V型8気筒をターボ化した。このままで行くと高性能自然吸気(NA)ガソリンエンジンは絶滅危惧種となるのだろうか?

※1 排気ガスのエネルギーを活用してタービンを高速回転し、空気をエンジンに送り込む装置。熱効率が高く、燃費消費率を低減させ、排気ガスの有害成分を減少させることが可能と言われている。
※2 ターボ(過給機エンジン)の反対に位置するエンジンを、自然吸気エンジンと呼ぶ。アクセルに対する反応がシャープだが、同排気量の過給機エンジンと比べ非力であると言われており、さまざまな改良が加えられている。

 

2009年VW、主力のゴルフⅥにダウンサイズ・コンセプト搭載

ガソリンエンジンのダウンサイジング&ターボ化の波は、2009年、独フォルクスワーゲン(VW)社から始まった。同社の代表車種である6代目ゴルフ後期モデルで、初めてダウンサイズ・コンセプトを発表。それまで2リッター・ガソリンエンジンをメインとして、高性能モデルには3.2リッターV6エンジンをも搭載してきた同車が、新開発TSI型1.4リッター・ターボエンジンに換装して話題になった。ターボ装着は走りの性能、つまり出力&トルクアップだけでなく、燃費にも効くという事実が確実に浸透してきた象徴的な事件だと言えよう。

小さく軽いエンジンをノーズに収めた効果は歴然としており、圧倒的に軽くなった鼻先を得て、抜群の回頭性をゴルフにもたらした。この軽快なハンドリングの素晴らしさが世界で評価され、その後世界のクルマの心臓が“ダウンサイズ”ターボ化する。

省燃費と運動性能を両立するうえでターボ化は重要な技術で、このまま技術開発を突き詰めると、ディーゼルエンジンのようにすべてのガソリンエンジンがターボ化される可能性もある。気持ちのいいエキゾーストノート※3を奏で、高回転域までキレイに回る自然吸気エンジンが無くなる日が来るのだろうか?

※3 自動車などのマフラーから出る排気音

 

ターボチャージャー過給機の基本

ガソリンエンジンのダウンサイズ&ターボ化の話の前に、いち早くターボ化したディーゼルターボについて少し触れておこう。ターボはガソリンエンジンよりもディーゼルエンジンと相性がいいと言われており、今や世界のディーゼルエンジンは、ほぼすべてターボ化されている。ディーゼルエンジンの場合、ターボで大量の空気をシリンダーに送り込んで圧縮し、空気の温度が高温になったところに燃料(軽油)を噴射して自己着火させる。この燃料噴射技術の向上でターボ化が一気に進んだ。ディーゼルターボの場合、一般的に低負荷運転時に理論空燃比(最適とされる燃料と空気の混合比)よりも空気が多い希薄燃焼で稼働するのが特徴だ。よりパワーが必要とされる場合、ディーゼルターボは噴射する燃料量を増やして(理論空燃比に近づけて)出力アップを図る。

一方、ガソリンエンジンは空気と燃料を混ぜた混合気を圧縮し、吸う空気量で出力を調整する。一般に、空気と燃料が完全燃焼する理想的な混合比とされるストイキ燃焼の場合が多く、ターボの役割がやや異なる。

ディーゼルにせよガソリンエンジンにせよ、ターボがどのようにたくさんの空気をエンジンのシリンダーへ送っているのかというと、シリンダーで燃焼したガスはエンジンの排気行程でピストンの上昇により排気ガスとして排気管へ押し出される。この排気ガスの流路にタービンを設置し、排気ガスの流れによってタービンを回す。この際に、排気タービンの回転軸のもう片方の端に別のタービンを付加し、エンジンの吸気システムに置くことで、エンジンのシリンダーへ空気を大量に送り込む。これを過給と言い、過給する側のタービン装置をコンプレッサーと呼ぶ。これが基本的なターボのシステムである。

8AR-FTS Turbo
レクサスIS、同NXからクラウンに移植する8AR-FTS型と呼ぶ2リッター直列4気筒直噴ターボエンジン。最高出力は245ps(175kW)/4000-5800rpm、最大トルクは35.7kg.m(350Nm)/1650-4000rpm

 

国産ターボエンジンは“省燃費”を掲げたが……

国産乗用車で初めてガソリンエンジンにターボを装着したのは、1979年に登場した日産セドリック&グロリアだ。オイルショックを契機にして省エネ指向が高まり、“ターボは環境に優しい省燃費エンジン”としてアピールした。当時、日産は2.8リッター直列6気筒のL型エンジンを最上級車種で展開していたが、2リッター6気筒にターボを装着して2.8リッターエンジンを上回るパワー&トルク(145ps/21.0kg.m)を発揮した。その後、日産は歌手の沢田研二をCMキャラクターに起用した910型ブルーバードに1.8リッター4気筒ターボエンジンを搭載して大ヒットさせる。その後、トヨタやホンダ、三菱など各社がターボエンジン搭載に追随した。

1980年代にはコンパクトカーの日産マーチやホンダ・シティ、トヨタ・スターレットなどにもターボエンジン搭載車が登場して一種のブームと呼べる状況となった。しかし、そのころはまだ直噴エンジン※4も可変バルブタイミング※5もなく、燃料噴射装置のレベルも低く、低回転域ではレスポンスの悪い、いわゆるターボラグなどのターボ車のネガティブな要素が解決できていなかった。そして、90年代になると国産ターボは、一部高額なスポーツ車を除いてほぼ死滅する。

※4 独VWゴルフのダウンサイジングなどで活用される、ガソリンをシリンダー内に高圧で直接噴射するエンジン技術
※5 エンジン効率を高めるために、エンジンの回転数や負荷に応じて燃焼室を外界に開放したり、遮断したりする機能

 

トヨタの進出、そしてホンダの挑戦

いち早く国産車で過給機によるダウンサイズに取り組んだのは日産のコンパクトカー、ノート。2012年にターボではなく、同様の効果が得られるスーパーチャージャーで排気量ダウンに取り組んだ。日産ノートは、さらに4気筒から3気筒エンジンへエンジンのサイズ縮小に挑んだ。

搭載するパワーユニットは、ノートのために新開発したエンジンで、1.2リッター直噴ミラーサイクル直列3気筒可変バルブタイミング機構付きDOHCスーパーチャージャーで、最高出力98ps/5600rpm、最大トルク14.5kg.m/4400rpm。ターボがエンジンの排気でタービンを回し、コンプレッサーを動かすのに対して、スーパーチャージャーはエンジンの駆動力でコンプレッサーを駆動するため、応答性がターボよりも速い。加速・登坂時などのパワーが必要なシーンで、スムーズな加速性能を得やすい。

組み合わせるトランスミッションはエクストロニックCVT(無段階変速機)。エンジン回転数に合わせ、電動クラッチでON/OFFを効率よく制御することで、低燃費と気持ちの良い加速性能を両立した。アイドリングストップなどの省エネ対策機構を組み合わせJC08モード燃費25.2km/リッター(S DIG-S)、24.0km/リッター(X DIG-S)を達成している。

トヨタ自動車も2015年4月に発売した新型「オーリス」でダウンサイズしたターボエンジンを採用した。しかも、かなり冒険と思えるグレード&価格設定で臨んだ。排気量が最も小さい1.2リッターターボエンジン搭載車の価格が最も高い設定なのである。排気量至上主義だったトヨタ車ヒエラルキーを無視したこのラインアップが消費者に受け入れられるのか、興味深い。

オーリスの搭載エンジンは、1.2リッター直噴ターボ、1.5リッター自然吸気、1.8リッター自然吸気の3種類。1.2リッターターボエンジンは、排気量が小さいのでエンジンは小型で軽量、車両のノーズが軽いため軽快なハンドリングが得られ、燃費も良くなっている。その1.2リッターエンジンは、最高出力116ps(85kW)/5200~5600rpm、最大トルク18.9kg.m(185Nm)を1500~4000rpmの幅広い回転域で発生させ、2リッタークラスに匹敵する性能を持つ。ただし、高価になりがちなターボエンジンの価格を吸収するため、1.8リッター車よりも装備を充実させて価格を高く設定した。

トヨタでは、今後もダウンサイジングを推し進める。この秋には高級セダンのクラウンに、2.5リッターV6エンジンと換装する格好で、レクサスISやNXで既に搭載している2リッター直噴ターボを載せる。8AR-FTS型と呼ぶ2リッター直列4気筒直噴ターボエンジンで、最高出力は245ps(175kW)/4000-5800rpm、最大トルクは35.7kg.m(350Nm)/1650-4000rpmである。これによってアスリート系から2.5リッター自然吸気エンジン車が廃止となる。また、同エンジンはレクサスGSにも搭載する予定だという。ただし、トヨタではダウンサイズターボをあくまでもモデルのラインアップの一部として販売する。トヨタでは、日本でターボモデルがどの程度売れるかは未知数としているようだ。しかもターボ周辺部品の価格についても需要が増えれば安くなるという図式には、まだ至っていないという。トヨタにとって、ダウンサイジングターボ車は、性能は良いが価格も高くなる傾向にあるようだ。

Toyota Clown
この秋、2リッター4気筒ターボを搭載するトヨタ・クラウン・アスリート系。アスリート系は2.5リッターV6を廃し、3.5リッター、2リッターターボ、ハイブリッドというラインアップとなる。写真は限定車の「そら色クラウン・アスリート」

しかし、そうした一般論をホンダはブレークスルーした。同社の5ナンバーミニバンのベストセラー「ステップワゴン」をフルモデルチェンジし、2015年4月に発売した。5代目となる新型ステップワゴンは、先代と同じ3列シートのミニバンである。大人数で乗っても加速性能や燃費を損なわないように、排気量1.5リッター直噴ターボエンジンをホンダ車として初めて搭載した。この新エンジンは、街乗りなどの常用域で2.4リッター自然吸気エンジン並みのトルクと、JC08モードで17.0km/リッターの低燃費を実現する。そのアウトプットは最高出力150ps(110kW)/5500rpm、最大トルク20.7kg.m(203Nm)/1600~5000rpmだ。ほぼ全域で最大トルクが得られる素晴らしい特性のエンジンだ。

Honda_Stepwgn_S
写真の新型ホンダ・ステップワゴンは、ダウンサイズした1.5リッターターボエンジンだけを搭載する大胆な設定で臨んだ。ダウンサイジングコンセプトは省エネを指向するが、一方でパワーを得るための最大効果も追求する

同エンジンのターボチャージャーには、エンジンの回転数の変化に対して応答性の良い三菱重工業製小径タービンを採用した。小径タービンを採用したことで、エンジンの回転数が低く、かつ排ガスの流量が少なくてもタービンを駆動させやすいため、低回転域から過給できる。また、過給圧を任意に調整できる「ウェイストゲート」を電動で制御し、過給領域での排気ロスを減らすことで燃費の悪化を防いだという。

この新型「ステップワゴン」は、ダウンサイジングターボ車だけをラインアップ。あえて排気量の大きな自然吸気エンジンのモデルは用意していない。今後とも同ステップワゴンには、自然吸気ガソリンエンジン車の追加は無いという※6

※6 ハイブリッド車の追加については、その可能性を否定することはできないと思われる。

 

これまでターボに消極的だったマツダも、次世代スカイアクティブ戦略の一環として2.5リッターターボを開発しているという。また、ディーゼルエンジンで培った希薄燃焼技術をガソリンエンジンに応用するガソリンの「リーンバーン過給」に注目している。こうして国産ガソリンターボは80年代のネガティブな要素を排除し“省エネ”の看板を掲げて復活を遂げている。

世界の自動車用パワーユニットのトレンドは、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド(PHV)を含む電気自動車(EV)、クリーンディーゼル、燃料電池車(FCV)、そしてこのダウンサイズターボと百花繚乱(りょうらん)と言えよう。

吉田恒道(よしだ・つねみち)

フリーランスのジャーナリスト&エディター。大学卒業後、世界のモード界を取材するファッション誌編集部でキャリアをスタート。自動車専門誌副編集長、男性ライフスタイル誌の編集長を複数務めた後、独立。近著に『シングルモルトの愉しみ方』(学習研究社)があり、2015年3月に電子書籍としても発売されている。

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