
2025.5.4
「らしさ」で育てるオウンドメディア
ブランディングや広報、採用などの目的で多くの企業が運営しているオウンドメディア。しかし、運用するなかで「なかなか読まれない」「他社と似た内容になってしまう」「思うような成果が出ない」と悩む方も多いのではないでしょうか。
その背景には、「自社らしい発信」がうまく機能していないことがあるかもしれません。
この記事では、オウンドメディア制作の現場で見えてきた成功と失敗の要因をふまえ、「らしさ」を軸に自社らしいメディアへと育てていくための視点と方法をご紹介します。
こんな悩み、ありませんか?
エクスライトではこれまで、多数のオウンドメディアの立ち上げ・運用を支援してきました。誰もが知る有名企業もあれば、認知度は高くなくとも、きらりと光る技術を持つBtoB企業もあります。
案件ごとに成果のかたちは異なりますが、企業の発信課題に真摯に向き合ってきた経験は、私たちの強みのひとつです。
そんな私たちが相談を受けるオウンドメディアの悩みには、以下のようなものがあります。
オウンドメディア制作のよくある悩み
- 自社の特徴や価値がうまく伝わっていない気がする
- 他社と似たような発信になってしまい、差別化が難しい
- 記事を出しているのに、成果や手応えが感じられない
- 品質のばらつきやトンマナの不統一が気になってきた
- この方針のままで本当に良いのか、自信が持てない
こうした課題はオウンドメディア運用担当者なら誰でも、多かれ少なかれ持っているのではないでしょうか。そして、これらの処方箋は、すでにネット上にいくつも挙がっていて、AIに聞けば気の利いた回答を提示してくれます。
カスタマージャーニーや編集ガイドラインが大事です、メディアや制作会社出身のインハウスエディターやコンテンツ責任者を雇用するとうまくいきます、品質管理プロセスにAIを導入してみては? などなど。
もちろん、どれも間違いではなく、自社が置かれた状況によっては正しい打ち手になります。
しかし、ここでは課題の対処療法ではなく、オウンドメディアを本質的に捉える観点からお話ができればと思います。今ある諸々の課題をまとめて解決し、関わる人々に意義を感じてもらうメディアに育てることが「ゴール」です。
自社らしさ=オウンドの本質

私たちは、オウンドメディアには「(自社)らしさ」が大切だと考えています。なぜなら、自社らしさがなければ、極端な話、その発信は「ただの情報」になってしまうからです。
その他大勢の情報になれば、記憶や印象に残ることもなく、いとも簡単に情報の海に紛れてしまいます。「らしさ」の伝わらない発信は、そこにかけた時間と費用と労力をあっさり奪ってしまうのです。
読者目線が大事だとか、体制づくりがポイントだとか、各論ではいろいろとありますが、「らしさ」こそ施策を成功に導く”背骨”である。私たちはそう考えています。
では、本題に入る前に、まず「らしさ」というものが普段の生活のなかで、どのように形成され、機能しているかを考えてみましょう。
- 山田さんは遅刻しないよね
- 山田さんだし断るだろうね
- 山田さんなら信用できるわ
- 山田さんらしいファッションだね
人が「その人らしさ」を感じるとき、その背景には揺るぎない信念や、日々のふるまいを導く行動指針があると考えられます。それらに根ざした行為が、一度きりではなく、何度となく繰り返されることによって、まわりの人々の記憶や印象に積み重なり、「らしさ」の輪郭が形作られていきます。
このような考えを前提に、「オウンドメディア」という言葉を「オウンド」と「メディア」の2つのワードに分解してみます。
◉ owned
- 語源:
古英語 āgan(所有する)に由来。主体的に持つことを表す語根を持つ。- 意味:
所有している、自分のものである。- ニュアンス:
管理・コントロールしていることに加え、「自分らしさ」「主体性」「誇りを持って語る姿勢」を含む
◉ media
- 語源:
ラテン語 medium(中間、媒介)の複数形。- 意味:
情報やメッセージを伝える手段・媒体。- ニュアンス:
発信と受信の間をつなぐ存在であり、「継続的な発信」「社会との接点」としての性質を持つ。
オウンドは本来「所有している」という意味が中心ですが、「自分らしさ」というニュアンスを含んでいます。一方、メディアは「情報を伝える手段」として使われますが、「継続的に発信する」という性質を宿しています。
この2つの関係性に注目して「オウンドメディア」という言葉をひもとくと、以下のような構造と仕組みが見えてきます。
オウンドメディアは「自社らしさ」を体現した記事を継続的に発信する場である。
信念や行動指針*に結びついた発信を繰り返すことにより、自社らしさの印象はより確かなものになっていく。
*企業活動においては「ブランド」と言い換えることもできます
運用担当者にこうした視点があれば、オウンドメディアで届けるべき記事や運用の方向性は一気に明確になり、判断しやすくなります。
一方、本質的なイメージを抱くことなく日々の運営していると、そもそも何のために発信しているのか、予算をかける意味があるのか、迷い始めることになります。
よくあるつまずきとその正体

社内でオウンドメディア施策の意義が問われるとき、「うまくいっていないから」「成果が見えないから」といった理由で、予算確保や継続可否に影響が出ることは少なくありません。
物事がうまくいっていないときに考える定石は3つあります。
1つ目は、どこでつまずいているか見極める。
2つ目は、解決のアプローチをコンパクトに考える。
3つ目は、サンクコストを惜しまず、なるべく早めに撤退する。
ここでは3つ目は一旦脇に置き、オウンドメディアで「(まだ)何かができるのではないか」と考えている人に向けて話を進めます。
オウンドメディアに「らしさ」が感じられない原因は、フェーズごとに存在します。設計、制作、運用。どこでつまずいても、発信の一貫性は薄れてしまいます。では、それぞれのフェーズで起きやすい“つまずき”をみていきましょう。
設計フェーズ:メディアの方向性が曖昧
主な課題:目的・方針・構造の不明確さ
- メディアの目的やターゲットが定まっていない
- 編集ガイドラインや表記ルールが整備されていない
- コンテンツ種別や記事タイプなどの構成要素が整理されていない
- 「らしさ」を支える語り口や読後感の設計ができていない
- 制作の型となるプロトタイプや運用基準が整っていない
→ 方向性の不明瞭さが「設計の迷い」を生み、制作以降に波及
制作フェーズ:期待する品質に届かない
主な課題:戦略理解の不足とスキルの乖離
- 記事の狙いや事業内容に対する制作陣の理解が浅い
- ライターに深みや読後感をもたらすスキルが不足している
- 編集者に取材交渉や監修アサインなどの経験値が足りていない
- 撮影やイラストなどのコンテンツディレクション力が心もとない
- 記事品質や自社らしさの最終判断をする役割が不在
→ 設計に基づいたアウトプットが安定せず、コンテンツの「らしさ」が揺らぐ
運用フェーズ:継続性に体制が耐えられない
主な課題:継続性・一貫性・体制の不安定さ
- ライターごとの語り口・粒度にバラつきがある
- 制作側に「編集統括」や「品質管理者」がいない
- 「らしさ」と品質を担保して継続更新する体制がない
- 体制が流動的で「らしさ」の蓄積や共有がされない
- 定期的な編集会議などがなくPDCAを回せない
→ 一貫性を持ってメディアを育てるための「組織的な土台」が脆弱になりやすい
こうしたつまずきを一つひとつ解消していくためには、各フェーズの役割を整理し、全体の流れを意識してつないでいく視点が欠かせません。方向性を固め、期待品質に落とし込み、それを継続していく体制が揃って初めて、メディアとしての「らしさ」は読者に届きます。
ただ、すでに運用が始まっていて、全体を見直すのが難しいケースもあります。
そんなときは、すべてを解決しようとせず「コンパクトに考える」のがポイントです。
たとえばですが、
- 発信目的に合わないコンテンツは非公開とし、更新対象を絞り込む
- 自社らしさが伝わりやすいテーマを厳選し、特集として「記事群」で扱う
- 10本分の予算を3本にまとめることで、数ではなくクオリティ重視の方針に舵を切る
- 思い切って上流の設計フェーズに絞って見直しを行う
といった判断があります。
それでもうまくいかない場合は、オウンドメディアから一旦撤退し、代替手段で目的が実現できないかを考えるのも一案です。そのうえで、やっぱり必要と判断したなら、改めてゼロから立ち上げるほうが、取り組む意義もはっきりし、スムーズに事が運ぶかもしれません。
遠回りに見えるかもしれませんが、これも解決へのひとつのアプローチです。
「らしさ」を実現する編集の力

私たちが支援できるのは、企業内のオウンドメディア担当者と並走しながら「らしさ」を実現するコンテンツをつくることです。もしくは、「らしさ」を阻害する要因を見つけ出し、企業と読者の関係性を正常化し、良好な状態に導くことです。
支援のフェーズは、設計・制作・運用とさまざまですが、なかでも要となるのが「編集者」の存在です。企業の担当者とライターの1対1の関係ではなく、編集者が間に入ることで、企業の意図や戦略をくみ取り、制作の言葉へと翻訳する。そうした橋渡しが、質の高いアウトプットにつながります。
以下に、それぞれのフェーズから入る支援の入り口と、私たちが担う役割の一例をご紹介します。
設計フェーズ|「らしさ」を見つける・定義する
課題例 | 私たちのサポート内容 |
---|---|
メディアの目的やターゲットが曖昧 | 目的・ターゲット・ペルソナの設計支援(ワークショップ形式も可)、カスタマージャーニーの策定支援 |
編集方針やガイドラインが未整備 | 編集・運用ガイドラインの策定支援(トンマナ・語り口・構成・表記ルールなど) |
コンテンツ構成やカテゴリ設計が不十分 | ラインナップ設計、カテゴリ・記事タイプの整理 |
コンテンツの「らしさ」が定義できていない | 記事プロトタイプの制作、読後感設計の支援 |
制作体制が機能していない | 編集・制作フローの設計、役割分担とチェック体制の構築 |
より上流の設計に関わる場合は、ディレクターが企業の戦略や課題をヒアリングし、編集ガイドラインと運用ガイドラインを策定します。立ち上げから関わる場合だけでなく、運用途中の部分的な見直しも含みます。
目的、ターゲット(ペルソナ設定)、コミュニケーション設計、コンテンツラインナップ、記事企画書フォーマット設計、記事プロトタイプ作成、制作運用体制構築などに携わります。
制作フェーズ|「らしさ」の質を上げる
課題例 | 私たちのサポート内容 |
---|---|
記事の品質や語り口にばらつきがある | 編集者による原稿整理・トンマナ調整、ライター教育、校閲体制構築 |
自社らしい視点や深みが記事に反映されない | 編集者の“翻訳”サポート、インタビューディレクション、取材対象となる有識者キャスティング・監修者アサイン |
適切なライターやカメラマンが見つからない | テーマや目的に応じたライター・カメラマン・イラストレーターなどの制作アサイン |
プロトタイプの品質を再現できない | ガイドラインのチューニング、新規ライターアサイン、品質向上のオリエンテーション、編集者による品質管理体制構築 |
最終判断がぶれる | 編集者が第三者視点でチェックして方向性を担保 |
制作フェーズでは、メディアの方針に基づいて、各記事の狙いをアウトプットに落とし込む実行部分を担います。キャスティングや監修、撮影やビジュアル編集を伴うため、編集者のスキルや経験値が問われます。
また、事業の特性や記事の戦略・狙いに応じて、ふさわしい書き手を起用できるかも記事品質を左右します。このフェーズがコンテンツの「出口(=読者と接点を持つ最終工程)」にあたるため、ここを制することができなければ、読者との良好な関係性を築くことはできません。
設計フェーズで定義した「自社らしさ」が内容だけでなく読後感まで含めて実現されているか。1本1本の記事を通じて、その“らしさ”を検証していきます。
運用フェーズ|「らしさ」を継続する・育てる
課題例 | 私たちのサポート内容 |
---|---|
体制や書き手の変化で一貫性が揺らぐ | 編集責任者の外部委託、編集チーム単位での安定運用支援 |
更新が遅延する、品質管理に手が回らない | 進行・品質チェック体制の整備、企画と進行管理の分業体制、編集者・ライターの補充など体制強化 |
外部パートナーが増えすぎて指示が煩雑 | 編集窓口の一元化と制作フローの標準化 |
継続的な改善ができていない | 編集会議・モニタリングでの改善提案と実行支援 |
AI活用とのバランスがとれない | AI生成と人手によるコンテンツの線引きと編集判断の提供 |
運用フェーズでは、リソースや体制に関する課題が顕著になります。企画趣旨に沿った制作陣(ライター/カメラマン/イラストレーターなど)で体制を組めるかどうかは、信頼できる外部パートナーとのつながりがカギです。
また、オウンドメディア担当者が複数の外部ライターをまとめるケースでは、品質や対応にばらつきが生じやすくなります。編集会社側にメインの担当者や専任チームを置くことで、品質と更新の安定運用基盤が整います。
AIで量産するケースも想定されますが、どこに編集判断を介在させるべきかを見極めたうえで、人とAIの役割を明確にするのが良策です。
こうしたフェーズごとの課題に丁寧に向き合い、編集の力で「らしさ」をかたちにしていくことが、オウンドメディアの価値を支える土台となります。
オウンドメディアが持つ可能性

「オウンドメディア」という言葉が登場してから10年以上が経過し、その役割や機能も少しずつ変化してきています。
登場当初は、「自社で自由に発信するメディアが持てる」という“少年期”のワクワク感がありました。発信するネタも社内にたくさんあり、記事にするだけで自社のユニークネスを感じてもらえました。
やがて時代が進み、不用意な発信によって炎上が起きたり、想定外のリスクにさらされたりするなど、“青年期”特有の憂いを帯びてきます。SNS疲れならぬ「オウンドメディア疲れ」が出てきたのもこの頃です。
現在に至っては、ブランド戦略やカスタマージャーニーの一部に組み込まれるなど、より成熟したかたちで運用が行われています。ターゲットとなるステークホルダーの幅も広くなり、社会の中で受け入れられる「自社像」を体現する存在になりました。
また、IRやインナーブランディングを意識した戦略的な活用、業界内でのポジション確立の手段になるなど、より大人の考え方や振る舞いが求められるようにもなってきました。
成熟したオウンドメディアを運用するのは、もちろん簡単ではありません。
しかし、「らしさ」を維持しながら継続的にメディアを育てていくことは、企業にとっての確かな資産となり得ます。
(あえて平易な言葉で表すなら…)
- この商品なら間違いない
- この企業なら入社したい
- あの企業は投資する価値がある
- このサービスを導入すれば問題を解決できそう
- あの人の会社、すてき…!
- この会社、応援したい!
継続的な発信によって形作られた「らしさ」は、ちょっとやそっとでは揺らがない、ステークホルダーとの固い絆になります。
私たちは、オウンドメディアを支援する“テキスト起点の会社”として、企業や商品・サービスが(うそや誤解のない形で)自分らしさを発信できるようお手伝いしています。
一緒に「らしさを見つけたい」「らしさを育てていきたい」と考えるオウンドメディアの担当者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
みなさまとお目にかかれるのを楽しみにしています。
オウンドメディアのこれから

直近でいえば、企業経営のトレンドでホールディングス化が進むなか、グループをまとめる立場のホールディングス会社がブランドコミュニケーションの旗振り役となり、オウンドメディアを統括していくケースが増えています。
また、グローバル環境の急激な変化や地政学的な影響はありつつも、ESG経営やサステナビリティ、社会貢献関連のコンテンツを拡充しようとの流れも続いています。ポッドキャストなど音声コンテンツの活用も広がっています。
目的や時代の変化に応じて、活用するチャネルや発信テーマは移り変わっていきますが、AIによって情報量が一層増える今後は、「自社らしさ」や「品質」のある発信が、これまで以上に価値を持つようになると考えられます。
文:エクスライト編集部