2025.3.12
ESG経営はなぜ必要? 企業広報にもマストな考え方を簡単に解説
近年、企業の成長において「ESG経営」がますます重要になっています。その理由は、環境問題や社会課題への対応、そして企業の透明性を高めることが、長期的な信頼や発展につながると考えられているからです。
今回は、ESG経営とは何なのか、なぜ今企業にとって重要なのか、ESG投資の可能性などについても解説します。
目次
ESG経営とは?
そもそもESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を取った言葉です。2000年代初頭、国連が企業に対して環境や人権問題、労働体制に配慮した経営を求めるようになったことで、投資家が企業の持続可能性を評価するための指標として広まりました。
ESGの各要素が抱える主な課題は、以下の通りです。
E | 環境 | 気候変動、環境汚染、生物多様性の減少、資源の枯渇など |
S | 社会 | 人権侵害、過重労働、ハラスメントやジェンダー差別、安全性に問題のあるサービスや商品、地域社会との摩擦など |
G | 企業統治(ガバナンス) | 不透明な経営、不祥事の隠蔽、会計不正、取締役会における独立性の欠如など |
こうした課題を解決するために「ESG経営」が求められています。ESG経営とは、上記3つの観点を重視しながら、企業価値の向上を目指す経営手法のこと。単なる利益追求ではなく、社会や環境への貢献を通じて持続可能な成長を実現する考え方が根底にあります。
ESG経営が求められる社会的背景
近年、最新テクノロジーの進化や経済環境の急速な変化により、将来の予測はますます難しくなっています。こうした不確実性の高い時代を象徴する言葉として、「VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)」という概念が生まれました。
先行き不透明なVUCA時代において、企業は短期的な利益の追求にとどまらず、長期的な視点で持続可能な成長を目指すことが求められています。なぜなら、環境問題や社会課題は年々深刻化し、それに伴い投資家や消費者の価値観も大きく変化しているからです。今や企業の評価は、財務的な利益だけでなくESGへの取り組みによっても左右される時代。実際、ESGに配慮しない企業は「地球環境や社会への配慮が欠けている」とみなされ、投資対象から除外されるリスクもあるのです。
ESGとSDGsの関係性は?
ESGと関係が深い言葉に「SDGs」があります。SDGsは「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。両者はともに持続可能な社会の実現を目指す取り組みですが、ESGは企業の経営手法に関する概念であるのに対し、SDGsは世界中の企業や団体、個人が目指すべき共通の目標を示しています。
SDGsは2015年に国連サミットで採択された17の開発目標で、その達成期限は2030年です。つまり、ESG経営を実践することは、結果的にSDGsの目標達成に貢献するということ。ESG経営はSDGs達成に向けた重要な手段ともいえるでしょう。
ESG経営のメリット
ESG経営に取り組むと、信頼性の高い企業体制を構築できます。ここからは、ESG経営がもたらす4つのメリットを紹介します。
企業イメージの向上
ESG経営に取り組むことは、企業の社会的責任を果たす姿勢を示し、ブランド価値の向上につながります。特に、環境負荷の低減やダイバーシティの推進といった具体的な取り組みは、消費者や取引先の共感を得やすく、信頼性も得やすい傾向にあります。その結果、企業と同じ価値観を持つ優秀な人材も確保しやすくなるでしょう。
危機管理とリスク回避
企業経営には、財務管理や情報漏洩、コンプライアンス問題など、さまざまなリスクが伴います。ESGの視点を経営に取り入れることで、環境規制や社会的な変化によるリスクを事前に察知し、迅速に対応できるようになるでしょう。例えば、気候変動対策や人権配慮を重視することで、法規制の強化や不買運動といったリスクを回避しやすくなります。また、企業の透明性を高めることは、不祥事の未然防止にもつながるため、組織の持続的な成長につながるでしょう。
労働環境の改善
ESG経営は、働きやすい職場づくりにも貢献します。例えば、柔軟な働き方や、ダイバーシティ&インクルージョンを推進すると、多様な人材が活躍できる環境が整います。労働環境の改善は社員のエンゲージメントや定着率の向上にも直結するため、優秀な人材も引き寄せやすくなるでしょう。結果として、生産性の向上や企業競争力の強化にも寄与します。
投資家からの評価向上
持続可能な成長を重視する企業は、投資家や金融機関からの評価が高まりやすい傾向にあります。なぜなら、環境や社会への配慮、適切な企業統治を実践することで、経営の透明性や安定性が増し、長期的な成長が期待されるからです。また、ESGに関する取り組みを積極的に開示することは、企業価値の向上にもつながります。これにより、資金調達の機会も広げやすくなるでしょう。
ESG経営の注意点
ESG経営の本質は、企業の持続的な成長と発展を実現することです。環境問題や社会課題の解決は一朝一夕には進まず、成果が得られるまでに時間がかかるのが一般的です。そのため、ESG経営には長期的な視点が不可欠であり、短期的な成果を優先すると、途中で施策を断念するリスクも生じかねません。
一方で、S(社会)やG(企業統治)の施策は、比較的早く成果を実感しやすい傾向にあります。例えば、労働環境の改善や情報開示による透明性の向上は、E(環境)に関する施策よりも目に見える形で効果が現れやすいでしょう。自社の現状を把握し、適切なアプローチを選択することが、ESG経営の成功につながります。
ESG投資とは?
ESG投資とは、E(環境)やS(社会)に配慮し、適切なG(企業統治)を実践している企業に投資することを指します。2006年に国連が「PRI(国連責任投資原則)」を提唱して以降、ESGの視点が投資の重要な基準となり、世界中でESG投資が拡大しています。
ESG投資の手法にはさまざまなアプローチがありますが、GSIA(世界持続可能投資連合)が定める7つの投資戦略を理解しておくと、適切な対応を検討しやすくなるでしょう。
1 | ネガティブスクリーニング | ESG の観点から問題がある企業への投資を避ける。 |
2 | ポジティブスクリーニング | ESG 評価の高い企業を優先的に選び、投資する。 |
3 | 国際規範に基づくスクリーニング | ESG の国際基準やガイドラインに沿った企業を投資対象とする。 |
4 | ESGインテグレーション | 財務情報と ESG 要素を組み合わせ、総合的に投資判断を行う。 |
5 | サステナビリティテーマ投資 | 持続可能な社会の実現に積極的な企業を選ぶ。 |
6 | インパクト・コミュニティ投資 | 社会や環境に良い影響をもたらし、同時に経済的リターンも期待できる企業に投資する。 |
7 | エンゲージメント・議決権行使 | 投資先企業と対話を行い、ESG の取り組みを強化するよう促す。また、株主としての議決権を行使し、経営の方向性に影響を与える。 |
ESGスコアとその評価機関
ESG投資では、企業のESGへの取り組みを数値化したESGスコアが重要な指標となります。これは、外部のESG評価機関が独自の基準に基づき、企業の取り組みを分析・評価したものです。
現在、複数の評価期間がESGスコアを提供しており、代表的なものは以下の5つです。
MSCI | 米国 | 米国の金融サービス会社 MSCI が提供。企業の ESG リスクと機会を分析し、ESGスコアを算出。特にジェンダー多様性や環境リスクに関する指標が注目される。 |
FTSE Russell | 英国 | ロンドン証券取引所グループ傘下の FTSE Russell が運営。企業の公開情報をもとに ESG の取り組みを評価し、国際的な ESG 指数を提供する。 |
Morningstar Sustainalytics | 米国 | 米 Morningstar 傘下の Sustainalytics が運営。企業の ESG リスクを評価し、投資家向けにスコアを提供。特に環境・社会リスクの分析に強みを持つ。 |
S&P Global | 米国 | 米 S&P Global が提供。企業のアンケート調査や公開情報をもとにスコアを算出し、環境負荷やガバナンスに関する詳細な評価を提供。 |
格付投資情報センター(R&I) | 日本 | 日本の代表的な格付機関 R&I が運営。国内企業の ESG 取り組みを評価し、日本市場向けの指標を提供。 |
ESG経営を企業広報が発信すべき理由
これまで紹介してきた通り、企業がESG経営に取り組むことは、社内外からの信頼を高めるうえで欠かせません。しかし、どれほど優れた取り組みを行っていても、発信が不足していれば認知されず、評価にもつながりにくいのが実情です。そのため、多くの企業が広報戦略の一環として、コーポレートサイトやオウンドメディア、SNSを活用し、ESGへの取り組みを発信しています。こうしたツールを通じて企業のビジョンや価値観を明確に伝えられれば、長期的なブランド構築にも貢献できるでしょう。
また、ESGを経営の柱として社内に浸透させるには、社内報やイントラネットを活用し、継続的に情報を共有することが重要です。社会の変化が加速するなか、自社の視点で発信し、ステークホルダーとの信頼を築いていくことが、企業価値を高める鍵となるでしょう。
まとめ
ESG経営は、環境・社会・企業統治の観点を経営に取り入れる方針です。積極的にESG経営に取り組むことで、企業イメージの向上や投資家からの評価向上だけでなく、労働環境の改善や経営リスクの低減といった企業成長にも貢献するさまざまなメリットがあります。目標を明確に設定し、定期的に第三者機関からの検証を受けることで、ESG経営がもたらす長期的な企業成長を実現できるでしょう。
文:エクスライト編集部