取材依頼に際して、企業や編集者が心がけるべきこと

企業と有識者・著名人・インフルエンサーなどをつなぐインタビューコンテンツ。取材依頼に条件や交渉が生まれるのは自然なことですが、快く協力してもらうカギは依頼の姿勢にあります。
といっても特別なことが求められるわけではありません。誰かにお願いをするとき、あるいはお願いをされるときを思い浮かべてみましょう。
この記事では、企業やその窓口となる編集者が、取材依頼に際して意識しておきたい基本的な姿勢をひもときます。

「取材」がもたらす新たな価値

コンテンツには、「取材なしで作れるもの」と「取材なしでは作れないもの」があります。前者は、すでに公開されている情報を整理・分析してまとめるものであり、それだけでも一定の価値はあります。しかし、取材を通じて得られる『一次情報』は、そのコンテンツにしかない独自性と信頼性をもたらし、コンテンツの魅力を飛躍的に高めます取材とは、まさにコンテンツに「新たな価値」を吹き込む営みです。

※「取材なし」で成立するコンテンツの中には、自身が有識者として発信するケースもあります。ただし本稿ではそのパターンは扱っていません。

ただし、取材は自分たちだけの力では成り立ちません。欠かせないのは、取材対象者、すなわち『協力者』の存在です。取材対象者にとって、取材に応じることは本業以外に自分の時間と労力を割く行為。特に初めて接する企業に対しては、「(その企業の媒体に出ることで)自分の発信やスタンスが誤解されないか」「負担が大きすぎないか」「企画が本当に実現するのか」といった不安を抱くのが自然です。

だからこそ、取材依頼を行う際には、まず信頼関係を築くことが欠かせません。その基盤となるのが、取材先への敬意と礼節です。相手を尊重し、真摯に対応する姿勢が、取材先の信頼を得る第一歩。このスタンスに基づく行動を積み重ねることが、編集者に求められる姿勢といえます。

取材先に「協力者」になってもらうために

取材先に快く協力してもらうには、事前の準備がすべてと言っても過言ではありません。単なる情報提供者ではなく『協力者』としてコンテンツに参加してもらうために、企業及び窓口となる編集者は以下のポイントを明確に伝える必要があります。

  • 企業がコンテンツを通して実現したい目的や伝えたいメッセージ
  • 取材先に依頼したい具体的な作業内容、スケジュール、進行方法
  • 提示する報酬や取材先への配慮事項

編集者には、これらを客観的かつわかりやすく整理する力が求められます。このとき忘れてはならないのが、企業のKPIや目的はあくまで「企業側の事情」に過ぎないという点です。報酬や露出が取材先にとって必ずしもメリットとは限りません。

取材依頼の出発点は、「取材先にとってメリットはゼロかもしれない」と考えることから始まります。そのうえで、「どうすれば協力したいと思ってもらえるか」を設計し、具体的に工夫しましょう。

取材先にとってのメリットは、たとえば次のようにさまざまです。

  • メディアに出演することによる認知度向上
  • ライフワークとするテーマやメッセージの発信
  • 本業に役立つ新たな気づきや視点の獲得
  • 企画を通して楽しさややりがいが得られる
  • 自身のブランディングへの貢献

こうした価値は取材対象者ごとに異なります。大切なのは、企業側と取材先で”メリットの認識にズレがあること”を理解し、そのギャップを埋めていくことです。編集者は橋渡し役として、双方の意図や期待を丁寧にすり合わせながら関係を築いていくことが求められます。

編集者が大切にすべき6つの姿勢

取材は「報酬を支払えば成立する」という単純なものではありません。取材先の立場や事情にきちんと向き合い、相手が安心して協力できる環境を整えてこそ、良い関係が生まれます。
そのために、編集者は以下のような心得と行動規範を持つべきといえます。

1. 相手を知る

事前リサーチを徹底すること。取材先の著書、研究、SNSの発信、登壇実績などにあたり、相手が何を大切にし、どのような活動をしているのかを調べます。相手の背景をきちんと把握することがリスペクトにつながり、取材テーマの提案や説明にも説得力が生まれます。

2. 相手の事情を汲む

取材テーマとの親和性、希望する公開タイミング、掲載期間、取材先側での告知の可否など、取材先のスケジュールや意向を尊重し、柔軟に調整することが信頼構築につながります。一方的な要求や押しつけにならないよう十分に注意します。

3. 企画を調整する

必要に応じて、取材先と相談しながら、企業と取材先の双方にとって意義のある企画にブラッシュアップします。企業の目的と取材先のメリットが両立する落とし所を見つけられるかが、編集者の腕の見せどころです。

4. 条件を明確にする

依頼内容、拘束時間、報酬、掲載媒体など、基本条件を曖昧にせず、具体的に提示することが大切。その上で、「なぜあなたにお願いしたいのか」「この取材にどのような魅力を感じているのか」という編集者の率直な思いも伝え、仕事の依頼である前に「人と人とのやり取り」であることを忘れない。

5. 懸念やリスクを払拭する

取材先が不安に思いそうな点は、たとえ小さなことでも事前に確認し、丁寧に説明する。報酬、競合の扱い、発言内容の事前確認可否、公開範囲など、細部まで誠実に伝えることが信頼を深めます。編集者から「ご懸念があればお聞かせください」と一言添える、その姿勢を大切にしたい。

6. 負担を減らす

拘束時間を最低限にし、無理なスケジュールや過度な連絡を避けることも心がけたい。取材先の負担を軽減し、気持ちよく協力してもらえる環境を整えることは、編集者が心を砕くべき大事な仕事。対面の取材撮影に時間が割けない場合はオンライン取材を採用する、本業に影響しない時間帯でセッティングするなど、取材先の負担を減らす工夫はいくつもあります。

信頼を紡ぐ編集者の役割

取材は、企業と取材先がそれぞれ納得して協力し合うことで成り立つ場です。どちらか一方の都合だけでは、良い関係も良い記事も生まれません。編集者はその間に立ち、意図や思いを整理し、信頼を形にしていく存在です。私たちもまた、その信頼を少しずつ丁寧に紡いでいける編集者でありたいと考えています。

文:エクスライト編集部
イラスト:中尾悠(yu nakao)

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