取材対象者と共につくり上げる、創造的インタビュー

インタビューは、取材対象者から情報を引き出す作業である以前に、人と人とが出会い、対話し、共に物語を紡ぐような営みです。単に質問を投げかけるだけでは、深みのあるコンテンツは生まれません。

限られた時間のなかで、取材対象者に心からの興味を抱き、語りたくなるような場をいかにつくり出すか? 本記事では、インタビューの価値を引き出すために求められる、インタビュアーの姿勢と心構えを掘り下げていきます。

単なる情報収集と一線を画す「インタビュー」ならではの価値とは?

人物にフォーカスした記事をつくる際、基本的には取材対象者へのインタビューをもとに記事をつくることになります。インタビューで引き出した内容で記事をつくるわけですから、インタビューの充実度がコンテンツのクオリティを左右することになります。

ここで重要になってくるのが、充実したインタビューを実現するためには、ただ単に「取材対象者に話を聞けばいい」というスタンスではいけないということです。インタビューを「情報収集のための作業(≒ヒアリング)」と捉えるような認識では、深みのある記事をつくり出すことはできません。

そもそも「inter(間)-view(見る)」という言葉が示す通り、インタビューには人と人、視点と視点が交差する場所としての位置付けがあります。そのような創造的な場を取材対象者と共につくり上げることが、インタビュアーの腕の見せどころです。

生成AIの登場以降、人の手によるライティングの価値が問われるようになってきました。インタビューの場合はどうでしょうか? もしかしたら、生成AIに向かって一人語りをするだけでも、それなりの記事はできてしまうかもしれません。

しかし、インタビューを前述したような「取材対象者と共につくり上げる創造的な場」だと考えるなら、そこには人が人に話を聞くからこそ生まれる、情報収集以上の何かがあるといえるのではないでしょうか。

一方で、単なる情報収集を超えたインタビューを実現するためには、インタビュアー側に相応のスキルが求められるのも事実です。たとえば以下のようなものが挙げられます。

  • 共感をベースにした臨機応変なコミュニケーション力
  • 安心感・信頼感のある「語りたくなる場」をつくる技術
  • 文脈と感情をつなぎ合わせる「物語化」の力
  • 取材対象者に合わせた問いの設計と編集力

これらはいずれも、数値化や定量化が難しく、客観的な指標で測ることが難しいスキルでもあります。表面的なテクニックはさまざまありますが、これらは結局のところインタビュアーが1人の生身の人間として、真摯に取材対象者に向き合う姿勢から生まれてくるものとも言えます。

「取材対象者にどのように興味を持つか?」という姿勢、「そうした姿勢をいかにつくるか?」ということこそが、インタビュアーに必要な心構えといえます。大切なのは、取材対象者を情報取得のための手段として捉えるのではなく、1人の人間として向き合うことです。

インタビューは事前準備からもう始まっている

では、インタビュアーはどのようにして取材対象者に興味を持てばよいのでしょう? 今日初めて会ったばかり、それも1時間や2時間という限られたインタビュー時間の中で、心の底から取材対象者のことを好きになるような興味の持ち方は正直難しいかもしれません。しかし、どこか一点だけでもいいので、自分がその人に興味を惹かれるポイントを見つけることは必ずできるはずです。

そして、そのような取材対象者に興味を惹かれるポイントを探すことは、インタビュー前の事前準備の段階からすでに始まっていますその際のヒントを以下に紹介します。

1. 事前リサーチは泥臭く行う

インタビューを行うにあたって、インタビュアーはさまざまな下調べを行うことと思います。そうしたリサーチを行う上で大切なのは、手間や苦労を厭わない姿勢です。インタビューの準備に終わりはないのだという認識のもと、インタビュー本番までの限られた時間の中で最大限のリサーチを行いましょう。

取材対象者も人である以上、「調べてきてないな」「自分にあまり興味ないな」というインタビュアーの“緩み”が少しでも伝わってしまうと、話の熱量が失われてしまいます。仕事の中でもタイムパフォーマンスが重視されるような時代ではありますが、ことインタビューにおいては、そうした効率重視の思考から離れて、泥臭くリサーチを行うことが大切です。

2. 自分の心の「引っかかり」を大切にする

リサーチを行う上で意識しておきたいのが、自分の心に「引っかかる」ポイントを見つけ出すことです。

たとえば、取材対象者の経歴やプロフィール、これまでのキャリアに目を通す中で「この取材対象者はなぜこのとき、このような判断・アクションを取ったのだろうか?」というような疑問が湧いてくることがあります。そのような自分の心に引っかかるポイントを見つけ出すことが、単なる情報収集とは一線を画す、人間味のあるインタビューを実現するための起点になります。

3. 自分なりの「仮説」と「コア質問」を考えておく

リサーチを行う中で、自分の心に引っかかるポイントを見つけたら、そこから自分なりに取材対象者に対する「仮説」を立てて、そこから引き出される、心から聞いてみたい「コア質問」を考えましょう

<例>

仮説
この取材対象者はキャリアのある時期、技術職から営業職に転換している。これはこの人の人生の中で、大きな転機だったのではないだろうか? この転換は自分の意思によるものなのだろうか、あるいは上からの指示などで仕方なく行ったものなのだろうか?

↓  ↓  ↓  ↓

コア質問
あなたのキャリアを振り返ったときに、ある時期に技術職から営業職へと転職されていますが、そこにはどのような決断があったのでしょうか?

前々から営業のような人と接する仕事に興味があったのでしょうか? それとも何か、そうしなければならない事情があったのでしょうか?

インタビューを行うにあたって、本番用の質問リストを事前に作成しておくことが一般的かと思います。質問リストの中には、通り一遍の質問だけでなく、こうした「コア質問」をいくつか混ぜておくことが大切です。

重要なのは、この「コア質問」は取材対象者に対するインタビュアーの個人的な興味関心に基づくものである、ということです。インタビュアーが心から気になる、聞いてみたいと思っている質問だからこそ、取材対象者との対話がより人間味を帯びたものになってきますし、コア質問が「よくぞ聞いてくれた!」と取材対象者の核心を突くような質問だった場合、完成した記事も他では読めないような独自性の高いものとなるでしょう。

取材対象者と共に「創造的な場」をつくるために

インタビューは、これまで面識のない出会ったばかりの人と、1時間や2時間という限られた時間の中で、普段その人が身近な人にも話したことがないような深い話をしてもらう場です。

そういった意味でインタビューは、日常生活の中ではあまり経験のないような、独特な時間と空間が立ち上がる場だとも言えるでしょう。そのようなある意味では不自然な場を、取材対象者と共につくり上げる一回性の創造的な場へと高めるためのポイントを紹介します。

相手に対する気遣いと、やりすぎないくらいのおもてなしを心がける

著名人へのインタビューならまだしも、一般の人を対象にしたインタビューの場合、過去に取材を受けた経験がない人がほとんどなので、多くの取材対象者が緊張しています。インタビュアー自身も緊張しているかもしれませんが、大抵の場合、取材対象者の方がもっと緊張しているはずです。

取材対象者の緊張をほぐすために大切なのは、取材対象者にリラックスしてもらい、インタビューそのものを楽しんでもらうと同時に、インタビュアー自身もまたインタビューの場を楽しむことです。インタビュアーは会話をリードするファシリテーターであると同時に、場の盛り上げ役でもあることを意識しましょう。

盛り上げ役と言っても、大袈裟に笑いをとったり、オーバーリアクションで受け答えをしたりする必要はまったくありません。「緊張されていますよね。恥ずかしながら自分も緊張しているので、お互いリラックスしていきましょう」というような自然なひと言をかけるくらいの意識で大丈夫です。そうした相手を気遣ったひと言をかけるだけでも、場の雰囲気は大きく変わります。

目の前の相手に対する気遣いと、やりすぎないくらいのおもてなし精神を心がけましょう。取材対象者に「今日はなんかいい話ができたな、人間味のある会話ができたな」と思ってもらえるようなインタビューができたら、その雰囲気はきっと記事にも反映されるはずです。

調べてきたことをいったん忘れて臨む

インタビューにあたって、綿密な下調べや事前準備が大切だと書きましたが、それを「いったん忘れてみる」ことも大切です。なぜなら、リサーチや準備したことにこだわってしまうあまり、インタビューが予定調和のつまらないものになってしまうことが往々にしてあるからです。

たとえば、取材時に調べてきた知識を思わずひけらかしたくなったり、事前に作成した質問シートの流れにこだわって話の流れが硬直化してしまったり、想定していた話の流れから脱線した時にパニックに陥ってしまったり……。

インタビュー時に事前に想定したような流れで話が進んでいかなくても、がっかりしたり焦ったりせずに、その脱線自体を楽しめるようにゆったり構えて臨む姿勢も大切です。そのような脱線が案外おもしろい話へとつながっていったり、思わぬところで取材対象者の本質的な部分に触れていたりすることもあります。

準備してきたことは所詮は準備に過ぎない。そのようなある意味、割り切ったような心持ちで、インタビュー時はあくまで目の前にいる取材対象者とじっくり向き合いましょう。

人と人が向き合うからこそ生まれる「創造の場」を目指して

繰り返しになりますが、インタビューにおいて何よりも大切なのは、目の前にいる取材対象者を情報収集のための道具として捉えるのではなく、1人の「人」として向き合う姿勢とマインドです。

インタビューを単に情報を集める場ではなく、人と人とが交差し、物語が生まれる「創造の場」へと高められるかどうかは、インタビュアーのスキルはもちろん、目の前の取材対象者にいかに興味を持って向き合うか、という姿勢にこそかかっています。

そうした姿勢から生まれる綿密な事前準備やインタビュアーなりの仮説の立て方、そして場づくりにおけるちょっとした気遣いなどのアプローチが積み重なることで、取材対象者の奥深い言葉や感情を引き出すことにつながっていくのです。

人と人が向き合うからこそ生まれる濃密な時間と空間、そこから生まれる読み応えのある物語をつくり上げることを目指して、インタビューという場を一期一会の豊かな出会いの場にしていきましょう。

文:エクスライト編集部
イラスト:中尾悠(yu nakao)

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