
ポッドキャストが企業のファンを育てる。音声が持つ「共感」の力とコンテンツ戦略のアプローチ
今、Spotify やradiko などに代表されるポッドキャストが熱いムーブメントとなっています。今後、ポッドキャストは企業のコミュニケーション活動を支援する効果的な施策の一つになると考えられます。音声が持つコミュニケーションの特徴と企業における活用方法について解説します。
目次
なぜ今、音声コンテンツなのか? アメリカと日本で生まれている新しい動員の形
ラジオに代表されるように、音声メディアは古くから存在しますが、現在、アメリカや日本において新しい形で受け入れられています。その背景について、事例を交えてお伝えします。
●アメリカではポッドキャストは生活の一部であり、政治利用も進む
調査会社エジソンリサーチによると、アメリカでは73%(推定約2 億1,000 万人)がすでにポッドキャストの聴取経験があり、過去1 ヶ月以内に聴いている月間リスナーは55%(推定約1 億5,800 万人)に。過去最多を記録しています。※1
日々の生活における利用に加え、アメリカでは政治領域での活用が進んでいます。2024 年、政治系ポッドキャストのダウンロード数は28%増加。63%の有権者が意見を変えるきっかけとなったという結果が出ています。※2 多くの有権者にとって、ポッドキャストは政治に関する意思決定を行うきっかけになっていると思われます。※3
●日本では「ながら聴き」文化が定着。16万人を動員するラジオ・イベント開催も
日本もアメリカと同様にデジタル音声広告市場が急成長しており、今後のさらなる拡大が予想されます。
この市場成長の背景として、リモートワークなどのライフスタイルの変化に加え、ワイヤレスイヤホンの普及やタブレットなどのデバイスの多様化が挙げられ、「ながら聴き」文化の定着が進んでいるといえるでしょう。
上記のようなメディア環境のなかで、お笑いコンビ・オードリーはラジオ番組から派生したイベントを東京ドームで開催。ライブビューイングを含め約16 万人を動員したと伝えられています。 ナインティナインや佐久間宣行氏など、他の人気パーソナリティのイベントも横浜アリーナを満員にするなど、かつてのラジオもradiko などのプラットフォームによって活況を見せています。
語り手の熱と連続性のある文脈がファンを育てる。ポッドキャスト/音声コンテンツの3つの特徴
ポッドキャストがリスナーの心に響き、選挙やイベントなどの実際の動員にまでにつながる要因として、次の3 つの特徴があると考えられます。
①連続性のある文脈を通じた深いエンゲージメント
一つの記事で完結することが多いWeb 記事とは異なり、ポッドキャストは企画テーマを連載形式で配信したり、長時間連続で番組を展開するなど、連続性のある文脈をつくることが可能です。公開時期を決まったタイミングに設定することによって、アクセスを習慣化させることも期待できます。
また、リスナーが日常の「スキマ時間」に聴くため、生活に溶け込みやすく、継続的な接触を通じてファンになりやすい傾向があるといえるでしょう。
②「声」だけのシンプルな情報が提供する共感と没入感
音声は他のコミュニケーション手段と比較すると、話し手の感情の動きや言葉遣い、話すトーンなどを通して個人的な情報(性格、価値観など)を伝えやすく、パーソナリティの人間性が伝わることで共感を生みやすい特徴があります。
提供する情報が音声のみであるため、リスナーは頭のなかで話し手が語っている表情や情景などを思い描き、コンテンツにより深く没入できることも魅力の一つです。
③クローズドな空間を起点として生まれるコミュニティ
先述のラジオ番組が活況になっている背景の一つとして、「クローズドな空間での本音」も挙げられます。テレビでは話せないようなパーソナリティの弱さや些細なエピソードが、リスナーに向けて一対一の関係のように語られることで、受け手は強い親近感を抱くことにつながると思われます。
個人発のメッセージに対する共感が、プラットフォームのアルゴリズムやSNS を通してひろがり、コミュニティ構築につながりやすいことも特徴といえるでしょう。
音声は企業とステークホルダーとの価値観の共鳴を生む。広報、採用、マーケティング支援コンテンツとして活用
企業のコミュニケーション活動に向けて、上記のような特徴を持つポッドキャストの利用が進みつつあります。売上や組織規模、株価、製品スペックなどの定量情報からは見えづらい、事業や組織活動の背景にある本質的な価値や理念、関連する文脈などの訴求に有効であると考えられます。
例えば、広報や採用領域においては、企業のビジョンや事業にかける想いなど、抽象的な価値観をエモーショナルに届けることが可能です。マーケティング領域においては、文字だけだと理解が難しい専門知識やノウハウなどを、わかりやすい語りのなかで伝えることができます。なお、一つの企業アカウント内で、広報・採用・マーケティングの施策ごとに連載を企画するアプローチも考えられます。
施策 | 主なターゲット | コンテンツテーマ例 | 期待される体験(価値観の訴求) |
---|---|---|---|
広報 | 学生、投資家、社員 | ・事業を通じた社会課題解決への取り組み ・経営者の想いや企業の成長戦略 ・プロダクト・サービスを支える資産 など | ビジョンへの共感 企業の姿勢や世界観を伝え、信頼を醸成する |
採用 | 求職者(特に若年層) | ・個々の社員の成長ストーリーや背景にある志 ・組織カルチャーや部署ごとの業務内容の紹介 ・パーソナリティとの対談を通した社員のリアルな声 など | カルチャーへの共感 社風や働く社員の人柄を伝え、入社後のイメージを具体化させる |
マーケティング | 潜在顧客、既存顧客 | ・専門的知見を活かしたノウハウ解説 ・プロダクト・サービス開発の裏側・エピソード ・業界の著名人・有識者を招いた対談 など | 事業ストーリーへの共感 機能的価値だけでなく、背景にある物語や専門性でファンを育てる |
2027年から時価総額によってサステナビリティに関する開示が始まり、企業は長期的な視点で社会的アウトカムを求められることが予想されます。同時に、投資家を含めたさまざまなステークホルダーとのエンゲージメント構築がより重要となると思われます。
そのような課題に対して、企業の広報・採用・マーケティング活動は関連文脈や事業プロセスに関する継続的な情報提供が不可欠となり、ポッドキャストはその解決となる最適なコンテンツ・フォーマットの一つであるともいえるでしょう。
「音声→テキスト化」によって、カスマタージャーニーの課題を解決するコンテンツを効率的に制作
それでは、企業におけるポッドキャストの具体的な制作アプローチを解説しましょう。まずプランニングにおいては、他メディアやコンテンツとの連携を設計するのと同時に、制作の効率性をふまえて検討するべきと考えます。
カスタマージャーニーに沿った形で考えると、ポッドキャストはSpotify やAmazon Music などのプラットフォームで展開され、新たなターゲット層に向けた認知拡大の役割を担うことになるかと思われます。
例えば、ポッドキャストの概要欄にリンクを設定することによって、新規ユーザーをコーポレイトサイト・オウンドメディアへ誘引することも可能です。遷移後、企業理念や事業、組織などに関する具体的なコンテンツへのアクセスを通して、プロダクト・サービス、カルチャーなどについて理解をより深めるようなジャーニーを設計することができます。
また、制作の効率化の観点から、1 回の収録・取材から複数のコンテンツをつくることも考えられます。収録時の音声データをテキスト化し、オウンドメディアの記事やメルマガ、SNS 投稿、採用コンテンツ向けに再編集することで、一貫したブランドメッセージを押さえつつ、制作の効率化を図ることができます。
拡散を狙うポッドキャストとセットでどのようなストック型コンテンツを並行して制作するべきか、カスタマージャーニーの課題と制作効率の両者を想定したプランニングが重要となるでしょう。
ポッドキャストの他メディア・コンテンツへの展開例

なお、番組におけるキャスティングとしては、ラジオやポッドキャストなどの音声コンテンツ領域で活動しているパーソナリティや、事業の関連分野を語ることができる専門家をアサインすることが望ましいと思われます。プロフェッショナルである彼らの語りを基本に、社員との対談などを交えて訴求することが理想的です。
これからの編集者は「新しい声」が生まれる瞬間をつくり、横軸で企業コンテンツを戦略的に提案する
最後に、編集会社がポッドキャスト制作に携わる理由を述べたいと思います。まず前提として、弊社のパートナーとして、ラジオ局の制作チームと連携しており、企画から編集・パッケージングまで、高品質なコンテンツを提供することが可能です。
同時に、音声コンテンツの魅力の核である、話し手の「語り」を引き出すことに優れた編集者やライターが弊社に在籍しています。編集者は、専門家やパーソナリティの知見や魅力を引き出す「聞き手」としてプロであり、さらには部外者としてリスナーのリテラシーなどを配慮し、わかりやすく噛み砕いた形で質問することが可能です。
俯瞰的な視点を持ってコンテンツ施策にアプローチできることも、編集者の特徴といえるでしょう。ポッドキャストにおいては、書籍の章立てのように番組全体のテーマを設定し、各回の企画構成を組み立てることで、一貫性のあるコンテンツをご提案できます。さらに前述のようにポッドキャストを起点としたジャーニーの横軸で、コンテンツを戦略的に企画できることも編集者の能力と思われます。
インタビューや取材などの現場で生まれる「新しい声」のテキスト化は、弊社が長年取り組んできた得意領域の一つです。音声を起点としたコンテンツ制作をワンストップで支援し、企業のコンテンツ戦略全体を俯瞰できるパートナーとしてご提案させてください。
<参考サイト>
※1 US Podcast Consumption reaches record high: The Infinite Dial® 2025
※2 The September 2024 U.S. Podcast Ranker Release
※3 The Podcast Influence: Listening Habits of Registered Voters
文:エクスライト編集部