
2025.6.21
検索は変わる。SEOからAI時代へ——いま企業が取るべき打ち手とは
検索結果にAI Overviewが導入にされたことによって検索からの流入が減り、上位表示されてもクリックされない。このような悩みを抱える企業は少なくありません。かつて有効だったSEO施策が通用しにくくなっている今、検索を取り巻く構造そのものが大きく変化しています。
本記事では、AI検索の登場によってSEOの価値がどう変わってきたのかをひもときながら、AI Overview や生成AIの登場による検索行動の変化を整理します。そのうえで、この過渡期において企業が取るべき現実的なアプローチについて解説します。
目次
AI検索の登場でSEOはどうなった?
従来のSEOは、ユーザーがキーワードを入力し、検索結果から上位のサイトを訪れて情報を得る行動が前提でした。しかし、AI検索の登場により、この前提が大きく揺らいでいます。
a. AI検索によるユーザー行動の変化
ChatGPTなどの生成AIは、ユーザーの問いかけに対し、複数の情報源を要約した形で“すぐに使える答え”を提供してくれます。
これにより、ユーザーは以下のように検索方法を使い分けるようになっています。
- 概要や要点を知りたい場合: 生成AIに質問する方が効率的
- 企業の正式な情報や発信元を確認したい場合、リアルタイムの情報を確認したい場合: 従来のSEO検索を利用
ユーザーの体感も徐々に変わりつつあり、情報収集の最初のステップとしてAIを選択するケースが増えています。
b. 「ゼロクリック問題」が企業に与える影響
SEO検索の本流であるGoogleも、AI Overviewという新しい検索体験を開発しました。これは検索結果ページの最上部にAIが生成した要約や提案を表示する仕組みです。当初はSGE(Search Generative Experiences)という名称で試験提供されていましたが、一般公開に伴いAI Overviewと改名されました。 AIが自動生成した回答が検索結果の1位よりも上部に表示されるため、ユーザーが要約された情報を読むだけでウェブサイトへアクセスせずに離脱する行動が増加しています。これが「ゼロクリック問題」として顕在化しており、SEOに投資しても成果が見えづらいと感じる企業が増えているのが現状です。
検索行動はどのように変化しているのか?
AI検索が登場するまで、企業のSEO施策のゴールは検索結果の上位表示でした。しかし、AI検索という新しい手段やAI Overview の検索結果表示によって、上位表示されてもページが読まれないというギャップが生じています。これは、従来型のSEO効果が相対的に薄れてきていることを示唆しています。
この流れは一時的なトレンドではなく、今後も進んでいく構造的な変化です。Googleはすでに米国で「AI Mode」という新しい検索体験を一般公開しています(※日本での提供時期については不明)。ユーザーの検索行動は、SEO検索からAI Overview 、そしてAI Modeなどの生成AIによる検索へと段階的に移行していくと考えられます。
AI時代に情報を「届ける」にはどうすればいい?
こうした検索行動の変化に対応するには、将来主流になるAI検索の仕組みを理解することが不可欠です。
AI検索において生成AIが参照するのは、従来の検索エンジンと同様にウェブ上のテキストや構造化された情報です。これらを基に、AI独自のアルゴリズムでユーザーの問いに答えます。
AI検索が利用するデータでは、以下のポイントが重視されます。
- 情報構造の整理: 見出し、段落、箇条書きの明確化
- 出典と信頼性の明記: 著者名、企業名、公開日などの表示
- 構造化データの活用: FAQやHowToなどのマークアップ(Schema.orgなど)
つまり、SEOで重視されるユーザー視点に加え、LLMO(大規模言語モデル最適化)やGEO(生成エンジン最適化)と呼ばれるAIに選ばれるための最適化という新たな観点が必要になります。
過渡期に取るべき3つの打ち手
検索構造が変わりつつある今、すぐに成果が出る万能な解決策は存在しません。しかし、「いま、やっておくべきこと」は明確です。以下の3点は、従来のSEO対策としても有効でありながら、AI検索への最適化を見据えた基盤づくりとしても機能します。
- EEATの強化(SEO/AI共通の評価軸) 経験、専門性、権威性、信頼性の4要素を明確に表現することは、検索順位の向上だけでなく、AIによる引用や要約の信頼性判定にもつながります。特に著者情報の開示や一次情報の発信は、両方の観点で重要な役割を果たします。
- 専門性の強化(SEO的深掘り/AI的差別化) 対象テーマを絞り、深い知見を持ったコンテンツを蓄積することは、SEOにおける他サイトとの差別化に加え、AIによる内容抽出の際にも「識別可能な情報源」として有利に働きます。
- 構造化データの整備(生成AIを意識した設計) Schema.orgをはじめとした構造化マークアップは、Googleなどの検索エンジンによる理解を助けるだけでなく、AI Overview や生成AIが情報を解釈する際の精度向上にもつながります。投資利益率が見えづらく後回しにされがちですが、将来的な資産として蓄積しておくべき要素です。
これらの施策はSEOとAI検索の接点にあり、今後の検索環境の変化に備える上で堅実な投資と言えるでしょう。
自社に合った戦略の見極め方
打ち手に対する効果が不確かな状況では、「SEOにコストをかけるべき企業」と「かけすぎるべきでない企業」を見極めることも重要です。ここでは代表的な3つのタイプごとに、参考となるアプローチを整理します。
- 大企業の場合 一定の検索流入が見込めるブランドを持つ企業では、SEOの方針を見直しながら、引き続き投資を続けることが現実的です。人的リソースや専門知識を活かし、EEATや信頼性のある情報発信を強化することで、SEOとAI検索の双方に対応しやすくなります。
- 中小企業・スタートアップの場合 すべてをSEOで勝負するのは現実的ではありません。使える予算やリソースの限界を考慮し、ニッチな領域に絞ったり、SNSや他チャネルとの連携を前提に設計する方が、より手堅い選択肢となります。
- 専門性が重視される業種の場合 医療や法律など、信頼性や専門性が評価される一部の業種では、SEOが今も有効です。ただし競争は激化し、投資利益率は下がると考えられます。AIによる構成作成、専門家による監修、ポストエディットなど、早急に制作プロセスを見直し、持続可能な体制を構築する必要があります。
企業の立ち位置やリソースに応じて、戦略の選び方も変わってきます。自社にとってどこが主戦場なのかを見極めることが、この過渡期のいま問われています。
AI検索が主流となる時代に向けた情報発信
検索構造の変化に合わせて、コンテンツに求められる役割も変わります。AI検索が主流となる時代における情報発信では、以下の3つの視点がカギとなります。
- ユーザーファースト AIに引用されることが増えても、最終的に評価するのはユーザーです。問いに応える設計や、誠実な情報提供の姿勢がより重要になります。
- 信頼性 誰が、どんな立場で、どう語るのか。発信元の明示はもちろん、専門性だけでなく、継続性や透明性といった姿勢も含めた信頼が求められます。
- 多チャネル展開 検索だけでなく、AIチャットや音声アシスタント、SNS、コミュニティなど、複数の接点を前提に、情報の届け方も設計していく必要があります。
検索結果で上位を目指すだけの時代から、「信頼され、引用され、必要とされる情報」を多面的に届けていく時代へ。ユーザーの納得感と信頼を軸に据えたコンテンツは、AI検索が主流となった後でも評価され続けるでしょう。
文:エクスライト編集部